パトリツィア・ホテル
「ほう、咲さん。君にとっては幸せとはお金ではないと……」

「はい。私は今、勇人くんと一緒にいて、両親もいて、友達もいて……とっても幸せです。でもそれは、決してお金では買えないもので、今、この瞬間がずっと続いて欲しい。そして……この大切な時間と幸せな気持ちは、ずっと、忘れてはいけないんです」


そう……高校に入ってまだ一学期が終わったところだけれど、それは私にとってかけがえのない時間だった。

そして、お金なんてあってもなくても関係なく、私は勇人が大好きで、勇人もこんな私のことを愛してくれていて……

だから、私はそんな大金なんて要らない……今、この幸せな時間がずっと続いてくれればそれでいい。

上手く言葉にはできないけれど……私は自分の持てる限りの感情を以て、社長に伝えた。



すると、腕を組んで難しい顔をしていた社長は途端に柔らかく、和かな表情になった。

「うん、咲さん。素晴らしい……」

「えっ?」

「君のその無欲……純粋さに、こちらまで心を洗われるようだよ」

社長は白い歯を見せて、その大きな手で私の両手を包み込んだ。

「私のように、パトリツィアの……大会社の社長なんかをしているとね。どうも、欲にまみれた人間と接する機会ばかりになる。この世界にはね、金銭欲、名誉欲……そんな果てしない欲望が渦巻いていて、私も一瞬たりとも気を抜くことができないんだ」
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