パトリツィア・ホテル
でも、頬を伝ってじわじわと染みこんでくる痛みと共に、恐怖の感情が私を支配して……
どうしても、私は体を動かすことができなかった。

「へへっ、いただき!」

そいつがごつい手で、私のトップ水着を剥がそうとする。

「や……嫌だ!」

(助けて、勇人……!)

私は叫ぶ!

だけれども、それは声として出ずに頭の中で反響した。

しかし、次の瞬間……!

私を押さえつけていたそいつを、誰かが力ずくで引き剥がした。

眩しくって、顔がよく見えない……でも、私には分かった。

「勇人……!」

勇人が助けてくれた……

しかし、感激どころか安心する暇さえ、私にはなかった。

私が声を発すると同時に、砂浜に鮮やかな音が響き渡ったのだ。

それは……そう。勇人が、私を襲ったそのインストラクターの頬をグーで殴った音だ。


「てめぇ……」

その男は頬を押さえながら勇人を睨み……
その顔はそのまま凍りついた。

私も勇人の瞳を見て、ゾクリと背筋が寒くなった。


それは以前、私がナンパされた時に救ってくれた彼の瞳……

その時の幾倍もの、冷酷な炎を灯していて。

殺さる……瞳を見ただけでそう感じてしまうほどに。

憎悪をその内に燃やした、私の知らない彼がそこにいたのだ。
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