パトリツィア・ホテル


事件後、インストラクターが全面的に非を認めて……勇人と私はホテルに戻った。

部屋に戻って落ち着きはしたけれども、あの記憶が未だに頭の中で蘇って。

私の体の震えは治まらなかった。

それに、勇人の方も終始、無言で。

どうして……楽しいはずの沖縄のバカンスなのに。

そんな想いが私の頭の中を埋め尽くした。



私はベッドの上で……三角座りをした足に顔を埋めて、うずくまっていた。

もう何も考えられなくて。私はいつまでも、そのままじっとしていることしかできなかった。

「咲……」

何時間振りだろう……勇人が口を開いた。

「勇人……」

涙でじんわりと濡れた瞳を上げると、ダブルベッドに乗った彼は、私の前にいて。

その透き通った目で私を見つめた。

「ごめん……怖がらせて。俺、自分が自分でなくなって……でも。咲ちゃんが他の男にあんなことされるなんて、もっと、もっと怖くて……」

「勇人。いいよ……何も言わないで。私の方こそ……ごめん」

涙で彼の顔が滲む……だけれども彼は、その手を優しく私の頭の上に置いて、柔らかく撫でくれた。

「勇人……」

頭を撫でてくれる温かい彼の手は、とても心地良くて……何だか、とろけてしまいそう。私の心はじんわりと癒されてゆくのが分かった。
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