パトリツィア・ホテル
目の前のこの人……亜紀さんは、パトリツィアを捨てた。

でもそれは、決して安直な想いからではない。

きっと、彼女なりにツラくて苦しくて。苦しみぬいた末に出した結論なんだ。

亜紀さんのその、微笑みを浮かべているけれど……
少し潤む澄んだ瞳を見て、私は確信した。




「亜紀さん。実は……今、パトリツィアは倒産の危機に瀕してるんです」

「えっ……」

私が本題を切り出すと、その瞳は微かに揺れて……明らかに動揺した様子だった。

しかし、すぐに笑顔で取り繕う。

「嘘よ。だって、あの会社がそう簡単に潰れるわけないもの」

言葉ではそう言うものの、彼女はその原因に思い当たる節があるようで目が泳ぐ。

だから私は、僅かにうなずいた。

「神澤ファイナンシャル・グループに……融資が打ち切られてしまったんです」

私のその言葉に彼女は束の間、絶句して……
しかし、すぐに平静を装うかのように私に尋ねた。

「それで……そんなことを私に話して、どうするつもり?」

「えっ?」

「だってそんなの、私とはもう何の関係もないもの。そんな話をするために、わざわざ私の貴重な時間を割かれても困るわ」

彼女はそう口にしたけれど、それは本心ではない……
そのことは、明らかだった。
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