パトリツィア・ホテル
「……そんなこと、聞いて何になるの?」

正面の彼女は眉をひそめた。

「私が『捨てた』理由なんて、あなたが聞いてもどうもできないでしょ?」

そんな彼女の言葉は言い知れぬ哀しみを含んでいて……私の目からは思わず涙が溢れる。

「勇人は、すっごく寂しそうです。普段は明るくって爽やかだけど……時々、見せる顔がまるで、心を締め付けるほどに……」

涙でグシャグシャになったこの目で、必死に亜紀さんを睨んだ。

「だから……たとえ、お金で救うことができなくても。勇人に本当のことを話して上げて下さい。あの日、一体、何があったのか……そして、あなたの本当の気持ちを……」

私の必死の訴えに……彼女の瞳にも大粒の涙が浮かんだように見えた。

亜紀さんは、まるで込み上げる感情を抑えるかのように、大きな溜息を吐いた。


「勇人が……あの子が、あんなに無邪気だったから……」

「えっ?」

「母親失格だった私のことを、あんな笑顔で『大好き』だなんて言うから。臆病な私は……何も言わずに消えてしまうしかなかったの」

そこまで話して……
彼女の瞳からは堪えきれない大粒の涙が堰を切ったように溢れ出して。

暫くの間、嗚咽を上げて泣き続けたのだった。
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