パトリツィア・ホテル
「あの日。勇人をランドに連れて行った日はね。離婚を決意して……最後の思い出を作りに行ったの」

彼女はそっと、寂しげな笑顔を浮かべた。

「だけど、あの子……勇人はね、笑顔をキラキラと輝かせて私にこう言ったの。『お母さん、大好き! お母さんがいるから、こんなに楽しいパトリツィア・ランドがあるんだよね』って。私は全てを投げ出して、楽になりたかったのに……」

彼女の腕は小刻みに震えていて……

私はその手首に、一本の筋を認めた。

それは、もう随分昔の古傷……だけれども、彼女の手首にあるそれが何を意味するのか、私はすぐに分かった。

(もしかして亜紀さんは、私達が迷子になっていたあの日に……)

それは、私の邪推だったのかもしれない。

しかし手首についたその傷は、彼女の耐えがたいほどの苦しみと後悔……その全てを物語っているように思えた。



だから……私は彼女の手をギュッと握って。

驚いた顔をした彼女に、想いの全てをぶつけた。

「亜紀さんは、勇人達を捨てたことで今までずっと、苦しんできた。だからこそ……勇人がツラい想いをしている今だからこそ、彼に会ってあげて下さい。勇人だけでなく、あなたのためにも……」

「私のため……」

彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、頷いた。
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