パトリツィア・ホテル
すると、今度は勇人がすっと目を瞑り、口を開いた。

「無駄だよ、神澤さん。そんなことをしても……」

そして、懐からボイスレコーダーを取り出したのだ。

「君のここでの発言は、全てこれに記録されている」

「なっ……」

神澤さんは目を見開き……ギリっと歯軋りをした。

「新宮くん。私を……嵌めたわね」

「ええ。あなたならきっと、勇人を振り向かせるためには手段を選ばないと思ったわ」

悔恨の表情になる彼女に、私はそっとネタ晴らしをした。

そう……亜紀さんの考えを受けて、私は勇人に指示を出した。

それは、「咲と別れて神澤さんと付き合う。その代わり、パトリツィアへの融資を再開して欲しい」と彼女に伝えること。

いくら作戦のためとは言え、こんな罠に嵌めるようなこと……
心苦しくて、私も勇人も中々気乗りはしなかった。

しかし、その苦渋の決断をした結果、私達は彼女が不正をしたという、動かぬ証拠を手に入れたのだ。



だが……この期に及んで、彼女からはまだ虚栄の表情は消えなかった。

「それで? あなた達は一体、どうする気ですの?」

微かに震えながらも、その顔には薄らと笑みが浮かんでいる。

「たとえ、私が不正を働いているとしても……パトリツィアを救うには、あなた達は神澤ファイナンシャルの力が必要。そうでないこと?」
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