パトリツィア・ホテル



神澤ファイナンシャルを出た時には、もう西の空が夕焼け色に染まっていた。

(勝った……)

そう。私達は、彼女のあの理不尽な仕打ちによるパトリツィアの最大の危機を脱した。

本当に良かった……ここに来るまでの張り詰めた緊張は解けて、私はちょっと腑抜けていた。



しかし、勇人は掌をグッと握りしめ、その澄んだ瞳に薄らと涙を浮かべて……

歓喜とやるせ無さの入り混じった、複雑な表情で亜紀さんを見つめていた。


そう。勇人にとっては、この場に実のお母さん……亜紀さんがいる。

そのことこそが、信じられなくて。より一層、夢のようなことだろう。

「お母さん……本当に?」

やや震えるその声に、亜紀さんもその目に涙を浮かべてそっと微笑んだ。

「勇人……今まで、本当にごめんね。寂しくて……ツラい想いをさせて。でも……」

彼女のその微笑みは、涙でキラキラと輝いた。

「こんなに大きくなって。あんなに小さかった勇人が……私、今日、あなたに会えただけで本当に嬉しくて。もう、他に何も要らないくらいに……」

「お母さん……」

亜紀さんは、そのまま泣き崩れて……勇人はそんな彼女を優しくそっと支えた。
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