カタブツ御曹司と懐妊疑惑の初夜~一夜を共にしたら、猛愛本能が目覚めました~
「……騙していませんし、総務部を離れるつもりもありません。隼世さん本人から言われるならまだしも、ほかの人に私の身の振り方を指図される覚えはありません」
「はあ。きみ、意外と頑固だな」
斗真さんはジャケットの内側に手を入れて名刺入れを出し、一枚テーブルに出した。
裏にペンでサラサラと数字を書いていく。
「これは僕のプライベートの番号だ。明日、一日だけ考える時間をやる。これからもわが社の社員として尽力してくれるつもりなら、僕の秘書という素晴らしい椅子をいつでも空けておくよ。気が変わったら連絡してくれ」
カッと頭に血が上り、差し出された名刺を叩き落とそうかと思ったが、気がかりが多すぎてそんな力は残っていなかった。
すべて勘違いだったなんて、そんなの信じない。
今、自分が言った通りだ。
隼世さん本人からなにも聞いていないのに、ほかの人の言葉に踊らされるもんか。
「行っていいよ」と手をひらひらさせて出口を示す斗真さんをひと睨みし、私は黙って応接室を出ていった。