カタブツ御曹司と懐妊疑惑の初夜~一夜を共にしたら、猛愛本能が目覚めました~
「おはようございます」
作った笑顔で一礼してからキャラクターグッズの飾られたオフィスへ入ると、今日もいつもの光景が繰り広げられていた。
「隼世課長ぉ、んもぅ、見て見て。重い荷物を運んでるんだから、男性が率先して手伝ってくれますぅ?」
「あ、はい。手伝います」
手の上に収まるほんの小さな段ボールの荷物を運んでいた四十代のパートタイマー渡辺さんは、それを強引に課長に預ける。
課長の長い指はその荷物をひょいと持ち上げ、まるでお弁当箱でも持つかのように片手で掴んだ。
「重くて手首が折れちゃいましたぁ。ほら課長、痛いの痛いの飛んでけってしてくれますぅ?」
「え、いや、それは……」
もうセクハラなんじゃないかな、あれ……。
渡辺さんに迫られる課長の周囲に、さらに女性たちが集まって「あらあら課長ったら」と加勢する。
そもそも、パートさんたちは課長に合わせて早く来すぎなのだ。本当は十五分遅く出勤する契約なのに、こうして早く集まってお喋りしたり課長をからかっている。
契約上問題があるのではないかと以前課長が部長に進言したのに、「ここの女性たちは言っても聞かないからねぇ」と穏便に済ませたい部長は取り合ってくれなかった。
げんなりとしながら自分の席に着き、今朝も女性の輪の中にいる彼をもう一度見た。