身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「ツボミも来ています。だから、しっかりしてください、白銀さん」
「ツ、ボミ………」
社員の一人がツボミの名前を出すと、白銀の目にうっすらの光りが走った。そして、にっこりと微笑んだのだ。そして、ある方向をジッと見つめていた。
彼の視線の先には、2人掛けのソファが置いてあり、そこには微動だにしたいドールが2体座っていた。目は閉じており、手足もダランとしている。片方は最近広告でよく見かける最新型のドール。そしてもう1体はとても古いものだと見てわかる。あのドールがツボミなのだろう。古くても髪はさらりとして、肌にも艶がある。今にも動き出しそうなほどだ。大切にされてきたのだろう。白銀に愛されてきたドール。
「俺が……先に逝くのは……わかっていた…………こんなに早くなってしま………って、申し訳ない……な。ツボミ、大好きだ。……だか………ら、俺の分………までたくさんの景色……を見て欲しい元気…………で。皆………もありがとう。…………幸せだった」
「…………っっ………」
途切れ途切れの言葉を、居合わせた人たちは涙を流し、嗚咽しながら聞いていた。
これはツボミへの愛の言葉。最後のささやきだ。
ツボミには聞こえていないはずだ。
それが、文月には苦しくて仕方がない。
ほんの少ししか関わっていない人。だけれど、こんなにも悲しくなる。
機械音が一定の音を鳴らし続ける。
白銀が動かなくなり、医師が対応を続ける。
けれど、みんな覚悟している。わかっている。
もう白銀は動かない事を。
その日、白銀は短すぎる生涯を終えたのだった。