同期の御曹司様は浮気がお嫌い

そうじゃない。優磨くんの嫌がることなんて絶対にしない。

「っ……はっ……」

苦しい。過呼吸で言葉が出ない。
違う、と首を左右に振る。声が出ないから必死で訴える。

「それなのにいつまでも俺の部屋にいて……結局波瑠も城藤に近づくやつらと一緒。俺の金目当てで利用するんだ……」

めまいがするほど首を振る。足に力が入らなくなり床に座り込んだ。

「好きじゃないなら俺のそばに居ないでほしい」

「っ……はぁっ……」

必死で息をする。どうか声が出てと願う。

「俺には金以外の価値はないって知ってるから」

「そんなっ……こと……」

「でも……波瑠だけは真っ白で……純粋なまま……俺の全部を愛してくれると思ったのに……」

急に優磨くんが玄関に向かってしまう。咄嗟に動けず、少し遅れて立ち上がると優磨くんを追う。彼は靴を履いてドアを開けた。

「っ……」

苦しい。足がもつれる。うまく歩けない。

「まっ……待って!!」

叫んだ先にはもう優磨くんはいなかった。カチャリと玄関のドアが閉まり、私は壁に寄りかかる。

「はぁ……うっ……」

必死に息をする。早く呼吸を整えて誤解を解かないと。優磨くんは今傷ついている。本当のことを言うんだ。

足に力を込めて部屋を飛び出した。
マンションの下には優磨くんの姿はなくて、駐車スペースに行くと車がなかった。
彼は私の前からいなくなってしまった。










一晩たっても優磨くんは帰ってこなかった。
何度電話してみても出てくれないしLINEも既読にならない。

誤解を解く機会も与えられないまま、広すぎる部屋で優磨くんの帰りを待っている。

きっと今日も仕事に行っているはず。夜にはいつも通り帰ってきてくれるよね?

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