副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~
一通り洗い終えて涼花は湯船に浸かった。
ヒノキのいい香りがして癒される…。小さな窓がついていて、外の景色が見える。綺麗な星空が広がっているのが見えると、涼花は遠い昔を思い出した。
(ねぇ、綺麗な星空だろう? )
(そうですね…)
(俺、お前の広い心に惹かれているんだ。顔なんか、気にしてないから。信じてくれ)
(…はい…)
ベランダから見える星空…。
それを見ることが出来るだけで、とても幸せな気持ちだった。
隣にいるのは男性だが…
涼花にはその男性が誰なのか分からないままである。
ズキン!
涼花の頭に強い痛みが走った。
(あんたなんか、死ねばいいのよ! ブスのアンタが、副社長と結婚? 許せない! )
ドン! と背中を押され、そのまま階段から転落した涼花。
痛い…助けて…
そう叫びたくても叫べなかった…
朦朧とする意識の中やっとの思いで手を伸ばした涼花だが誰の手も伸びてこなかった。
薄れゆく意識の中。
このまま死んでしまうと思って目を閉じた涼花。
どのくらい時間が経過したのだろう…。
気づいたときは病院にいた。
傍には誰もいなく、ただ体中の痛みと頭に強い痛みを感じるだけ…。
もういい全て捨てよう。
そう決めた涼花。
「おーい、入るぞ」
声がしてハッと我を取り戻した涼花。
お風呂のドアを開けて宇宙が入ってきた。
「どうだ? ヒノキ風呂。それ、俺が特注で作らせたんだ」
言いながら椅子に座って体を洗い始める宇宙。
涼花はどこを見たらいいのか分からず背を向けた。
どうして入ってくるの? しかもあんな気楽に…。
ドキドキする鼓動を抑えながら涼花は背を向けてギュッと肩を抱いていた。
キュッとシャワーを止める音がして、ハッとなった涼花。
足音が近づいてきて…
宇宙が浴槽に入ってきた。
ビクッとして涼花は咲きに出ようとしたが、宙がそっと止めた。
「先に出るなよ、せっかく一緒に入れたんだぞ。ここから見える夜景を楽しもうぜ」
ギュッと涼花を引き寄せて、窓の外を見る宇宙。
密着すると宇宙の鼓動が伝わってきて、その振動が何故か懐かしいような心地よさで涼花は複雑な気持ちだった。