副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~
駅まで歩いて来た郷は歩道橋の上で立ち止まった。
フッと一息ついた郷。
「…ごめん。仇うちできなかった…。俺、臆病者なんだな…」
そう呟いた郷。
「篠山さん…」
声がして郷は振り向いた。
すると、そこには涼花がいた。
「…涼花さん…どうしたんですか? 」
「ちょっと用事で駅裏に来ていたんです」
「そうだったんですね」
「あなたに、ハッキリ言っておきたいことがあるの」
「なんです? 」
涼花はじっと郷を見つめた…。
「もっと自分を大切にした方がいいと思います」
自分を大切に。
そう言われると、郷はなんとなくズキンと胸い痛みを感じた。
「私の事を確かに見ていてくれたのでしょう。でも、私は貴方の気持ちに答えられません」
ハッキリ言う涼花に、郷は乾いた笑いを浮かべた。
「それはあの宗田さんがいるから? 」
「それだけじゃありません。もし、仮に宗田さんがいなくても。私が貴方を選ぶことはないです。根本的に違いますから」
「ハッキリ言いますね。昔の風香さんみたい」
「どう思ってもいいです。私、確かに記憶は曖昧で忘れる事も多いですが自分の気持ちはブレないって確信しています。…父と母を殺した人と、貴方が一緒にいるところを何度も見ているので。これ以上は深いりしてほしくないです」
郷はフッと笑った。
「思い出したのですか? 」
「思い出さなくても、叔父から来ています。あの美也って人が、父と母を引き殺した事」
「なるほどね。…それで、美也に対しての復讐心はもう消えてしまったという事ですか? 」
「いいえ、消えていません。でも、少なくとも貴方とはやり方が違うだけです」
「そうですか…」
フイッと視線を反らした郷。
悲しみと悔しさが同調しているかのような…重たい表情の郷…。
そんな郷を見ると、涼花にも痛みは伝わって来る…。