エチュード〜さよなら、青い鳥〜
『別れの曲』。初音が最も苦手なエチュードだ。


ーーねぇ、涼。
私はやっぱりピアノが大好き。あなたに出会ってもっと好きになった。最高の演奏をするから。
だから、私のピアノもいいって言って?


マーシャの演奏を知れば、初音の演奏はまだまだ未熟だとわかっている。
甘く切なく。ショパンの美しい音は追求するほどに遠ざかる。


ーーまるで、私たちみたい。
あなたの心に近づいたはずが、遠い。
ピアノよりあなたの側に居ればいいの?一緒にいればあなたの心に寄り添える?それが一番の幸せなの?


曲の中間部に入る。甘く切ない旋律から変わってショパンならではの劇的な要素が散りばめられた中間部。


ーーいいえ。私の人生にピアノがなければ、例えどんなに好きな人が側にいても、幸せじゃない。
ピアノがなければ、私は空っぽだから。
ピアノは私の人生そのものだから。



再び穏やかで美しい調べに戻る。
甘く切ない余韻を引きずりながら、弾き終えた。

と、次の瞬間。拍手をする間も与えずに、息をつかせぬような激しい始まり。
エチュード10-4だ。


マーシャは、いつも10-3と10-4を対で演奏する。どんなにリクエストがあっても、人前でそれぞれを単独では演奏しない。
ショパンは、この二作品を対を成す作品と考えて作曲した。演奏家はそれに従うべきと考えているから。初音もそれに従う。
美しく叙情的な10-3のあとの熱情的な10-4。その対照的な曲の勢いに、誰しもが飲み込まれていく。



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