エチュード〜さよなら、青い鳥〜
ここまで酷評されるとは、夢にも思わなかった。心が一気に凍りつく。

涼が好きだと言っていたエチュード。渾身の演奏を聞くに堪えないと言われて、ショックで足元が崩れていくようだ。


「君にはまだまだ学ぶべきことがある。
アリオンを去る俺の妻である必要はない」

「…涼はアリオンを辞めるから、もう私のこと、要らない?
そうだよね、元はといえば、アリオンでの立場を考えて私と結婚したんだものね」


丹下を利用して立場を優位にしようと提案したのは初音だ。
そんな涼が丹下の力に抗って、丹下に関わるものを全て手放したいと思っている。最高の音楽という理想を掲げて、自分の力で夢を追うという。
初音は、丹下の名前に苦しんでいたかつての自分を思い出してしまう。


「…それは、違うよ。
君にはピアニストとして成功してほしいんだ。ドイツで存分に勉強を続けてほしい。その為に、今の俺に出来ることは、君を自由にしてあげることだけ。俺のワガママに君を巻き込みたくないんだよ」

涼は目を伏せた。
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