エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「…さすがはマーシャ。
人生の終わりが見えたら、急に家族が恋しくなったんだ。やり残した夢を叶えたくて」

「え?病気?パパ、嘘でしょう?」

クラウゼ教授の顔色が変わる。真実を知って、ヘンリーの娘としての顔が現れていた。

「本当なの?大丈夫なの?パパ、どうして教えてくれなかったの?」

「落ち着いて、ディアナ。大丈夫だから。私はもう高齢だ。何が起きてもおかしくない。
これからは生まれ育ったドイツで、“ハインリヒ・クラウゼ”として穏やかに過ごしていこうと思っている。だからその前に、指揮者ヘンリー・クラウスであるうちに、君たちと共演がしたい」

クラウゼ教授の瞳から一筋の涙が伝っていく。気づいた初音は、慌ててハンカチを差し出そうとした。だが、初音より先にマーシャが動いた。

ふわり、とクラウゼ教授を抱きしめたマーシャ。涙を流す娘に、母として優しく抱擁している。

「最初からそう言えばいいのに。
私は美味しいスシが食べたいね。日本で一番美味しいスシを食べさせてよ、ハインリヒ」

「あぁ、わかった。とびきり美味しいスシを探しておくよ。
…ありがとう、マーシャ。ディアナをよろしく」


電話が切れる。


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