エチュード〜さよなら、青い鳥〜

もう一度、やり直してみようか。
一緒にこうやって涼音の成長を実感しながら、自分たちの関係も再構築していけばいい。

離れた距離は気持ちも離す。だけど、逆に近づけることもできるんじゃないだろうか。


「…お互い、チャンスは一度きりにしよう。
涼音を悲しませることは絶対にしないで。
私、前を向いて生きていくために、あなたのことは終わった過去だとけりをつけてしまったの。だから、新しい関係を築いていきましょう。
私に少し時間を頂戴。とりあえずあなたのマネージャーとしての素質を見るわ。
私はピアニストの高みを目指すから。マーシャが君臨する世界にまで到達してみせるから」




「…初音…ありがとう。俺、やるよ。世界のてっぺんまで君を支えてみせる」


涼が差し出した手を、初音はぎゅっと握る。
マメだらけで、ゴツゴツとした涼の手はこれまでの彼の苦労を物語っていた。
一方、元々指が長く大きな初音の手も、筋肉質でたくましくなっていて、これまでの練習量を物語っていた。


重なった視線が、ぼやけた。


「さて、日本語はわからないけど上手くまとまったようだし、スズネ、ウドーン食べに行こう!ウドーン、ウドーン」


「ウドーン!ウドーン!」


マーシャが、初音の腕の中から涼音をヒョイと抱き上げた。
『ピアノの神さま』と名高いマーシャが、涼音と即興でうどんの歌を歌う。傍目には孫を可愛がる祖母にしか見えない。


「さ、ハツネも、リョウさんも一緒に」


クラウゼ教授が、二人の背中を押す。
二人は笑みをこぼしながら、共に歩き出した。


再び始まる二人の未来に向かって。






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