一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 私はため息をついた。

「ミスター。海外は知りませんが、日本ではコンサートの聴衆はパリコレのドレスを着ません」

 奏者は着ているかもしれないし、一部の人も着ているかもしれない。
 けれど、大多数の人は少しおしゃれをしている程度で、結婚披露宴に参加するときほど気負っているわけでもない。
 こんな、花嫁さんレベルかハリウッドのレッドカーペットクラスのドレスを着ていったら、悪目立ち決定である。

 ネイトは片眉だけ器用にあげてみせた。

「玲奈。君は知らないかもしれないが、あの(・・)マルガレーテ・フォン・ヴューラーの公演だよ? 僕を含めて、彼女のファンは上流階級に属している者が多い。加えて、彼女自身もドイツの名家出身だ。場所は日本最高峰の劇場。間違いなく、彼女のコンサートは日本在住の欧米人の社交の場となる」

 つまりはセレブだらけってこと?
 ネイト、おもいっきりサラブレッド自慢してるように言ってる。

「今回の件の協力者である玲奈に、ボックス席を用意してある」

 ボックス席!
 私が目をまん丸くして固まっていると、ネイトは大袈裟に肩をすくめてみせた。

「君はこの僕、ウィリアム・クロフォードがエスコートする女性だ。それ相応の格好をしてもらわないと、僕が恥をかく」

 この言い草!
 スタイリストたちに、私たちが親しくないことを信じさせる演技と知ってなかったら、鼻をつまんでいるところだわ。
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