一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 音楽家になりたくて、あがいて苦しんだ。
 あのときに出来る最大限の努力した、今だからこそわかる。
 平等に、欲しい才能を欲しがるだけ与えられるわけではないことを。

 数値では推し量れない部分が私にはなかったのだと。
 芸術の女神(ミューズ)は私には微笑まなかったのだと、ようやく自分の演奏を訊いて思えるようになった。

 夢という電車は乗り続けてもいいし、降りてもいい。
 違う電車に乗り換えてもいいし、もう一度同じ電車に乗ってもいいんだと思える。

 ……痛みがなくなった訳ではない。
 諦めたことへの、負け犬みたいな気持ち。
 頑張って芽が出なくて、それでも頑張っている同級生へのコンプレックス。
 それらに一生悩まされるだろう。
 同窓会で、彼らを避けてしまうだろう。
 けれど。
 プロになれなくても、私が音楽で出来ることはある。

  看護師さんの一言で私が選んだ卒論は、【患者に音楽を聴かせたことによる、薬の浸透度について】というものだった。
 お兄様に治験を担当しているお友達を紹介してもらい、実験してもらった。

「臨床データが圧倒的に足りない。だが、音楽には人を癒す力があるのだという、一つの指針になるかもしれない」
 という評価をされた。
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