【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
有無を言わせぬ壮亮が笑って、あっさりと入口のほうへと歩いて行ってしまう。その先にいる橘専務とすれ違いざまに、どこまでも通る声が響いていた。


「柚のこと、よろしくお願いします」


返事を聞くつもりもない。言うだけ言って、勝手に扉の奥に消えてしまった。

どこまでも低くつぶかれた壮亮の声に、狼狽えてしまっている。

言葉とは正反対に、まるで、橘専務を威嚇するような言い方だ。どう考えても壮亮が悪い。

当てつけられたのに、橘専務はすこし黙り込んでから、困ったように私を見つめてくる。


「……佐藤さん」

「あ、はい?」


あくまでも、同僚として声をかけてくれているのだとわかる。すぐ目の前まで歩いてきて、やさしい瞳で見つめられた。

橘遼雅は、どんなにひどいことを言われても、決して感情的になって威圧したりしない。いつも状況をただしく判断しようと努める人だ。


「業務のことで、私に言いたいことは、ありませんか?」


やさしい問いかけだった。ほとんど答えを知っているような音程で耳に擦れて、胸がしびれてくる。


「ごめんね。お昼のお休み中に。でも、今すぐ教えてもらったほうが、きみを守れるような気がするから」


毎朝「何か困りごとはないですか」と聞かれていた。そのたびに否定していた私を、橘専務はどう思っていたのだろうか。

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