【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
鏡に吐くのも鬱陶しい。自嘲して、乱された髪をもう一度確認してからトイレを出る。


トイレの外へと一歩足を踏み出して、目の前に立っている女の顔に絶句してしまった。


『わたしが結婚するとき、ぜったいに、ドレスはいちばんに、そうくんに見てもらう!』


学習発表会の時に、ひどく緊張した俺を笑った柚葉が囁いてくれていた。

気が遠のきそうなくらいにやさしい記憶だった。その時の俺も、結局「うるせえブス」とつぶやいて、柚葉の顔を困らせていた記憶がある。

あのときも、本当は言いたい言葉があった。


「そうくん! いた!」

「……なにやってんだよ」


あの日着ていたスカイブルーのドレスとは比べ物にならないほどに綺麗だった。

うれしそうに笑って、こちらに歩いてくる。それもまた橘涼子が(あつら)えたものなのだろうか。

まぶしくて目を眇めたら、すぐ近くで下から覗き込まれる。


「そーうくん」

「なんだよアホ」

「ふふ、きてくれてありがとう」

「お前がどうしてもって言うからだよ」


憎まれ口をたたく癖は、こいつのせいで治らない。


「うん。ありがとう。……そうくんなかなか出てきてくれないから、ドキドキしちゃった」

「ああ?」

「見てみて! そうくんに一番に見てもらいたかったの」
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