半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
 その一方、リリアもまた、びっくりしてドクドクしている胸を押さえていた。少し落ち着いたのち、カマルが「よいしょ」と後ろ足で立ち上がったタイミングで尋ねる。

「でもそれ、帰ってからでも良かったんじゃないの?」

 正直な疑問を口にした。アサギだって、リリアのスケジュールを知っている。恐らく、日中には戻れることを伝えてあっただろう。

 するとカマルが、妖術で体の焦げ跡を消して、ふんふん興奮した鼻息をやりながら言う。

「いいえ! すぐにでもお会いしたかったのですっ」

 得意気に胸を張って彼が答えた。もふもふの狸が、両足で立っている姿に、廊下の向こうで何人かの生徒が「ぐはっ」「胸にきた!」と崩れ落ちていた。

 ……あそこの子達、ある意味大丈夫かしら。

 気付いたリリアは、ふと心配になった。ぶんぶん短い狸の手を振ってくるカマルに目を戻してみると、彼が意気揚々と述べてくる。

「実は、彼女と新居の住処探しに出るのです。今、メイは父親のもとで荷造りをしておりまして。あと少しで、旅立たなければなりません。ですから、時間がないので今すぐ恩返しをさせてください!」

 そんな押し付け恩返し、聞いたことない。
< 170 / 301 >

この作品をシェア

pagetop