半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
 でもやっぱり自信はなくて、頭からそろりと手を離しながら、リリアはびくびくして返事を待ってしまった。しかし、彼はやはり何か考えているようで黙ったままだ。

 ややあってから、サイラスが思考を終えたように一つ頷いた。

「そうか。気持ち良かったりするのか」
「なんかその言い方嫌だっ」

 事実だったから、リリアは咄嗟に距離を取って言い返してしまった。ただ、耳が一番敏感というだけである。

「別に、無理やり触ったりしないぞ」
「……そうなの?」
「それくらいの節度は持ってる」

 彼の口から、そんな言葉が出てくるとは思わなかった。

 でも、ふと先程、父に言った台詞が思い出された。似合わないとも言えなくなってしまって、リリアは小さく笑った。

「ふふっ、変なの」

 サイラスが、どこか少しほっとした様子で、不器用に口の端を引き上げた。

「そうか。俺が、『変』か」

 文句ととられても不思議ではないのに、彼はちっとも怒らなかった。リリアも、それを悪い感じだと思っていない。

 ああ、そうか。とくに理由がないから、文句も出てこないんだわ。

 ふと気付いた。出会うたびにピリピリしていたけれど、あれは何かしら互いにきちんと理由があって、イラッとしたことを明確に伝え合っていた。だから、負けじと口喧嘩になる。
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