きみのこと、極甘にいじめたい。
「今日おじさんと母さん、帰り遅くなるって」


「そーなんだ。ほんとあの会社って忙しいよね」



同じ会社に勤める理太のお母さんとうちのお父さんが恋に落ちたのは、同じ営業所で働いていた3年間。


ちょうど、あたしと理太が小五から中一だったころにあたる。



お父さんの転勤が決まってこっちに引っ越してきた後も、遠距離恋愛は続いていたらしい。



そして高1の春に彼女の存在をちらつかせてきた父が、高1も終わるついこの間の三月、結婚というパワーワードをおとしたのだ。



ついに理太と理太ママがこの家に引っ越してくることになり、理太の姿を見て動揺したあたしは『はじめまして!』と彼に言ってしまった。


すると息を呑むほどのイケメンに育っていた彼は、いちどキョトンとしてから


ーー『ハジメマシテ(、、、、、、)。きみ、素直ちゃんだっけ。今日から俺の妹になるんだって。うれしーね?』




何か企んでいるとしか思えない気味の悪い笑顔でそう言った。



この地獄を、今のあたしは少しずつ受け入れようとしているところ……。



――「ねぇ、このドリンクってさ、」



今ソファに座っている理太が、まだ口にしていないドリンクを小さく掲げながら、真後ろに立つあたしを振り返った。



さっきまで伏せがちだった長いまつげが上を向き、ヘーゼルの瞳があたしを映す。



――ドキ。



「素直が俺のために作ってくれたの?」


「……うん! それはもう、心をこめて!」


まずくなれーって!


すると、こっちに手を伸ばした理太は、あたしの髪を指にくるりと絡めてしまった。


ぎゃ、な、何……!



「ありがとね」



毒気のない笑顔に、心臓をばくばくさせられてる……。


「い……いえいえとんでもございません」


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