きみが空を泳ぐいつかのその日まで
もっと早くに、この小説のことを知っておけばよかった。そしてちゃんと読んでおくべきだった。

もしかしたらみどりさんがいまだに旦那さんとギクシャクしている可能性だってあるんだ。旦那さんだってあんなことをされて気分がいいはずないだろうし。
私のせいでふたりが仲直りできていなかったらどうしよう。

気ばかり焦って何をするべきなのかもわからないまま、とにかく前だけ見て走った。

昼間のうちに太陽にじりじりと焼かれたアスファルトから魔物のように沸いてくる熱が足許をもたつかせる。

でももう止まったりしない。
だってもううんざりするくらいわかってる。ここから先に進むためには過去と向き合わなくちゃならないって。

金魚はどうなったの?
ふたりはあの後どうした?
私はどこへ向かえばいい?

みどりさんと会えないだろうかと微かな可能性に期待して、行ける範囲のめぼしいスーパーや量販店をひとつひとつ回ることにした。

すがるような気持ちで電車に乗っていつもの駅へ。降りたらすぐ近くのドラッグストアに入る。みどりさんはいつもここで買い物をしてたはず。

迷わず向かったベビー用品コーナーで、彼女が下げていたオムツと同じ名前のものをすぐに見つけたけれどパッケージの色もデザインも見覚えがないものばかりだった。

季節限定デザインとかだったのかな。
だって彼女が下げていたのはブルーだったのに、陳列棚にあるのは白とピンクばかり。

そわそわして、途端に呼吸が乱れはじめた。
なくしたり、落としたりばかりでみつけられないのはもう散々。

「マミーズはどこですか? 青いやつ……」

いたたまれずに近くにいた女性店員に声をかけると、年配の店員さんは少し迷惑そうな顔をしながらもオムツの棚をチェックしてくれた。

彼女はひと通りそこを眺めると、思い出したようにふと話し始めた。

「そういえばありましたね。ブルーパッケージ」

どこかしあわせそうに在庫品を詰め込んだ上の方を眺めている。

「デザインを一新しちゃって今はここにあるのがメーカーの主流なんですよ」
「青いのは、どこに行ったら置いてます?」

あせって、舌がもつれそうになる。

「もうないと思いますよ。青がマミーズのメインカラーだったのは、うちの娘が2歳くらいのときだから……ちょうどお客様くらいの年齢の方があかちゃんだった頃の話ですし」

柔和な笑顔を残して店員さんは去ってしまって、私に残されたのはただひとつ。
それは混乱だった。
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