きみが空を泳ぐいつかのその日まで
しばらく街中をあてもなく歩いたけれど、本屋に入っても、お店でジュースを飲んでも、うまく時間をつぶせないまま仕方なくさっきの電話の主のほうへと向かった。
たどり着いた先は、駅前の交番だった。
紛失物らしきものがみつかったから確認に来るようにと唐突に言われて、いたずら電話だと思い一方的に電話を切ってしまったんだ。
でも説得力のある真摯な声を結局無視することができなかった。
一体なんのことなのか、さっぱり心当たりがない。だから交番の前まで来ても、中に入る勇気がなかなか出なかった。
深呼吸してから、そっとドアに手を掛けた。
「これ、あきらかに子供サイズじゃね?」
「でも一応見てもらわないと、色は緑で合ってるだろ」
ガラス戸の向こうにはさっきまでカラオケボックスにみんなといたはずの久住君がいて、驚きのあまりに何度も瞬きをした。
私に気づくと彼は不機嫌にそばまでやってきて「あんたがモタモタしてるから俺に連絡がきたんだよ」とため息混じりにつぶやいた。
「一緒に探してたよね? 理人は僕達の間じゃ、ちょっとした有名人だから」
中の警官が笑うと、腹立つなと久住君は少しふて腐れた。
「とにかく見てくれる?」
警官に言われるがまま紛失物とやらを確認したけれどやっぱりピンとこない。
ぼんやりしていたら、久住君に制服の裾を引っ張られたから、挨拶をして交番をあとにした。
ひたすら無言で、彼の影を踏まないよう歩き続けた。
「クラスのやつらに何の抵抗もしないとか、そういうのイライラする」
唐突に久住君はつぶやき、私はただ静かに息を飲み込んだ。
「あんたが思ってるような善人じゃないんだよ俺は。警察にも世話になってきたし、いい子ぶってみてもニセモノはしょせんニセモノだったってこと」
胸がバラバラに壊れそうで彼の背中を、黙ってただみつめていた。
「探し物がみつかんなきゃ、みどりさんには会っちゃいけないルールでもあるわけ?」
彼が当たり前に口にしたその名前に全然心当たりがなかった。
「その人、誰?」
「誰って、置いてかれて泣き出したこと覚えてないの?」
「それって……」
久住君と、もう普通にしゃべることができないよ。
「彼女に借りてた服をなくした、って俺ら遅くまで探し回ったじゃん。今行ったとこに届け出して、それらしいのがみつかったって連絡が来たから確認に行ったんだろ」
記憶をたぐりよせた。
そうだ、久住君が大きな声で名前を呼んでくれた。見失ってしまった人の名前を。
「必死だったよ結構」
思い出そうとすると、こめかみの辺りにネジを埋め込まれるような痛みが走った。
「暖簾盗んだ先も同じ名前だった」
「……あっ」
はっきりと、くっきりと、あの日の寒さまでがよみがえってきた。
それなのにその人のことだけが、少しも思い出せない。
「連絡先くらい知ってんだろ?」
「……わからない。たぶん知らない」
スマホにみどりなんて人の番号は入っていない。
「彼女と俺は会わずに正解だったな」
「会いに行こうとしたの?」
「……ちっとは思い出せよ」
暗くなり始めた遠くの空にたなびくオレンジと紫色を、久住君はいつまでも見つめていた。
たどり着いた先は、駅前の交番だった。
紛失物らしきものがみつかったから確認に来るようにと唐突に言われて、いたずら電話だと思い一方的に電話を切ってしまったんだ。
でも説得力のある真摯な声を結局無視することができなかった。
一体なんのことなのか、さっぱり心当たりがない。だから交番の前まで来ても、中に入る勇気がなかなか出なかった。
深呼吸してから、そっとドアに手を掛けた。
「これ、あきらかに子供サイズじゃね?」
「でも一応見てもらわないと、色は緑で合ってるだろ」
ガラス戸の向こうにはさっきまでカラオケボックスにみんなといたはずの久住君がいて、驚きのあまりに何度も瞬きをした。
私に気づくと彼は不機嫌にそばまでやってきて「あんたがモタモタしてるから俺に連絡がきたんだよ」とため息混じりにつぶやいた。
「一緒に探してたよね? 理人は僕達の間じゃ、ちょっとした有名人だから」
中の警官が笑うと、腹立つなと久住君は少しふて腐れた。
「とにかく見てくれる?」
警官に言われるがまま紛失物とやらを確認したけれどやっぱりピンとこない。
ぼんやりしていたら、久住君に制服の裾を引っ張られたから、挨拶をして交番をあとにした。
ひたすら無言で、彼の影を踏まないよう歩き続けた。
「クラスのやつらに何の抵抗もしないとか、そういうのイライラする」
唐突に久住君はつぶやき、私はただ静かに息を飲み込んだ。
「あんたが思ってるような善人じゃないんだよ俺は。警察にも世話になってきたし、いい子ぶってみてもニセモノはしょせんニセモノだったってこと」
胸がバラバラに壊れそうで彼の背中を、黙ってただみつめていた。
「探し物がみつかんなきゃ、みどりさんには会っちゃいけないルールでもあるわけ?」
彼が当たり前に口にしたその名前に全然心当たりがなかった。
「その人、誰?」
「誰って、置いてかれて泣き出したこと覚えてないの?」
「それって……」
久住君と、もう普通にしゃべることができないよ。
「彼女に借りてた服をなくした、って俺ら遅くまで探し回ったじゃん。今行ったとこに届け出して、それらしいのがみつかったって連絡が来たから確認に行ったんだろ」
記憶をたぐりよせた。
そうだ、久住君が大きな声で名前を呼んでくれた。見失ってしまった人の名前を。
「必死だったよ結構」
思い出そうとすると、こめかみの辺りにネジを埋め込まれるような痛みが走った。
「暖簾盗んだ先も同じ名前だった」
「……あっ」
はっきりと、くっきりと、あの日の寒さまでがよみがえってきた。
それなのにその人のことだけが、少しも思い出せない。
「連絡先くらい知ってんだろ?」
「……わからない。たぶん知らない」
スマホにみどりなんて人の番号は入っていない。
「彼女と俺は会わずに正解だったな」
「会いに行こうとしたの?」
「……ちっとは思い出せよ」
暗くなり始めた遠くの空にたなびくオレンジと紫色を、久住君はいつまでも見つめていた。