もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「ルリィ。心配なら寄っていくか?俺がいるから、絡んでくる輩もいないだろう」
「う、うん。ちょっとだけだから、表からでもいいよね?」
いつも用がある時は裏口から声をかけるのだが、今なら忙しい時間でもないからアイリちゃんのお母さんがいれば話だけでも聞けるかもしれない。
「すいませーん!」
「おや、ルリィちゃん。アイリは今、裏で洗濯しているけど、何か用があったかしら?」
「ううん、約束はしていないの。ただ、収穫祭の時、アイリちゃんが咳をしていたから気になって」
ちょうど宿の受付にいたアイリちゃんのお母さんに聞いてみると。
「ああ、そうだったのね。宿泊するお客さんでも咳をしている人がいるけど、アイリもまだ収まらないのよ。なんだか流行しそうで怖いわね、ってちょうど旦那と話していたところなのよ」
「おばさんとおじさんは大丈夫?」
「ええ。私と旦那は大丈夫よ」
やっぱりアイリちゃんの咳は治ってなかったか……。でも、家族に感染していないなら、飛沫感染の率はそれ程高くはないのかな?でも体力の問題もあるし……。
「心配だから、夕食の前に一度アイリちゃんのところに顔を出していいですか?今から咳止めを調合するので持ってきます!」
「まあ、ありがとう、ルリィちゃん。アイリに言っておくから、裏口から声を掛けてね」
「わかりました!じゃあ、また来ますね!おばさんも気を付けて!」
丁度入って来た宿のお客さんと入れ替わりで扉を出ると、すぐ隣の薬屋の裏口目指して駆けだした。
「ふむ。このローブル草もかなり魔力が濃くていい感じだね。これなら上物の薬ができるよ」
薬屋へ駆けこんで、店にいたおばあさんにまくし立てるように街の様子や咳の具合を聞くと、とりあえず落ち着いて持って来た薬草を見せておくれ、と言われて店番をヴィクトルさんに任せて調合部屋で薬草を広げた。
「本当ですかっ!じゃあ、木枯らし病の薬をっ!」
「ルリィ、落ち着きな。確かに今、街では咳が流行しているが、まだ木枯らし病と決まった訳ではないし、一番たちが悪いから警戒はしているが、今はまだ慌てる段階じゃないよ」
木枯らし病の怖いところは、症状が出ると病気が一気に進行するところだ。咳き込んで血が出るようになると容体が急激に悪化し、子供など抵抗力が弱い人たちはそれから五日も経たないでそのまま亡くなったり、高熱を出してすぐに亡くなったりするのだ。
確かに他の病気の可能性もあるんだけど……。でも、嫌な予感が収まらないんだよね。
「それに、薬師ギルドに持ち込んだし知り合いの薬師にも処理を頼んだからね。このローブル草を持って行けば調合も頼めるよ。木枯らし病は、症状が出た時にすぐに特効薬を飲めば、ほとんど死ぬことはないからね」
それが薬草を急いで用意した理由だった。
「だからルリィは咳止めを調合していておくれ。ここ二、三日で大分出るようになっているから、そっちの方が急ぎだよ。私は特効薬にとりかかるからね」
「はい!頑張ります!!」
まだ私では、特効薬を作る程の調合の技量はない。いざという時のことを思えば、練習で薬草を無駄にする訳にもいかないのだ。
とりあえず、私に今できることをやろう。
そう決めて、おばあさんに手洗いうがいやマスク、浄化して殺菌することの予防策を話し出したのだった。