もふもふになっちゃった私ののんびり生活

 街に来てから二日、いつもなら明日は家へ帰る日だ。
 この二日はほとんど薬屋から出ずに咳止めや熱さましなどを調合し続けた結果、咳止めもおばあさんにお墨付きを貰うことができた。
 昨日の夕方はアイリちゃんの宿屋に顔を出し、調合した咳止めを渡して手洗いうがいを勧めた。

「ありがとう、ルリィちゃん。なんだか咳が治らなくて、ちょっと心配だったの。その手洗いうがい?は面倒だけど、洗濯したり掃除したりするのに水を使うし、なるべくやるようにするね」

 そう言って笑ってくれたアイリちゃんは、それでもほんの少しの会話の間に何度か咳をしていた。


「ルリィ、でき上がった咳止めを店に運んでおいてくれるかい?今日は咳止めを買いに来る客が多いようだよ」
「あっ!調味料屋の女将さんに、咳止めをいっぱい用意しておくって言ったから、勧めてくれているのかも。客さんも咳をしている人が多いって言っていたし」
「なるほど、それでかね。まあ、酷くならない内に薬を飲んでくれた方が助かるから、ありがたいことだよ。じゃあ、頼んだよ」
「はい!」
 
 今朝から作り続けていた咳止めの薬を小分けにして包むと、籠に入れて店へと持って行く。今日も朝から店番をしてくれているヴィクトルさんに声を掛けてから、店のカウンターの中にある商品を置いておく棚へ行くと、昨日の夕方にたくさん補充しておいた薬が、すっかり減ってしまっていた。

「ヴィクトルさん、咳をしているお客さんが多いですか?」
「そうだな。熱が出たという客やいつもの傷薬を買いに来る客もいるにはいたが、やはり咳をしている客や家族が咳をしている、と言って咳止めを買いに来る客が多いな」
「やっぱり……」

 ヴィクトルさんは昨日私が言ったことを守ってくれて、今朝来た時から口に清潔な布を巻いていた。それによって強面に更に磨きがかかっていたが、この店に来る人はもうヴィクトルさんに慣れているのか奥の調合室へは騒ぎは聞こえて来なかったから大丈夫なのだろう。

「そうなると、咳止め用の薬草が足りなくなるかも……。家への行き帰りに採れば集まるかな?」
「そんなに足りないのか?咳止めに使う薬草はそこの草原で採れるから、討伐ギルドの依頼で常時成人前の見習いが採っている筈だが」

 この街は草原に囲まれているし、森の入り口まで行けば傷薬用の薬草なども豊富なので、常に採取依頼が薬師ギルドから出されている。そうして薬草は薬師ギルドから薬屋に卸されているのだ。

 おばあさんも薬師ギルドから咳止め用の薬草を普段よりも多めに仕入れてはいるのだが、どこの薬屋でも必要なのでこれ以上多くは仕入れられないのだと言っていた。

「そうなんですけど、需要が多くて足りないみたいなんですよ。依頼を多く出しても採取する人も急には増えないでしょうしね……」

 うーん、とうなっていると、ポン、と頭に手をのせられて顔を上げると、そのまま頭をそっとなでなでされた。
 その手がぺしゃんと倒れていた耳にも触れ、微かに触れるくすぐったさに、ピピピッと耳が震えた。
 顔を上げると、口を覆っていた布を下げられたヴィクトルさんの口元がゆるんでいるのが見えた。

「ルリィが何もかもやろうとしなくていい。後で討伐ギルドに状況を伝えてみよう。見習い以外でも、仕事帰りに少しずつでも採れば、量は増えるだろう」
「わあ!そうしてくれたら集まりますね!では、街に残って調合した方がいいか、おばあさんに相談してみます!」

 そう答えた時には、耳はピンと立ち、尻尾がふりふりと揺れていた。


 結局その日相談して、薬草は助かるが今は調合してくれた方が助かる、という訳で、しばらく街へ三泊から四泊して一日か二日家へと戻り、採取した薬草を持ってまた街へ来る、ということになった。

 まあ、街の状況次第でしばらくは様子みかな……。とりあえず戻ったらセフィーのご機嫌をとらないとね。

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