もふもふになっちゃった私ののんびり生活
街の滞在を二日延ばしてその間はひたすら咳止めを作り、家へ戻りながら薬草を採取して家で薬草の処理をし、二泊してから街で四泊する。
そのサイクルで生活し、二巡目が過ぎ、収穫祭から約一月が経った今。
街では咳をしている人が更に増え、熱を出して寝込む人も増えていた。
これは一度気温が上がり、温かくなったと思ったらまた急激に冷え込んだからだ。昨日の早朝には、少し早めの初雪もちらついたので、風邪をひく人が一気に増えたのだ。
「大変、大変だよっ!おばあさん、お客さんが咳が酷いと思ったら血を吐いたって!!」
そんな中、熱さましと咳止めをひたすら調合していると、店からアイリちゃんの叫び声が聞こえた。
「っ!!お、おばあさんっ!!」
「ふう。血を吐いただけなら、薬を飲めば大丈夫だ。私はちょっと行って来るから、店を頼んだよ。薬の判断に迷ったら、ちょっと待って貰っておくれ」
「は、はいっ!あ、この消毒液を持って行って下さい!これで患者さんに触る前と触った後は手を拭いて、あと、口の覆いは必ずして行って下さいね!」
思わず立ち上がってしまった私と違って、おばあさんは冷静に用意していた薬をカバンへ詰めている。そんなおばあさんにアルコールを蒸留して作った消毒液を慌てて手渡すと。
「はいはい、もう何度も聞いたよ。大丈夫だよ。私はもうずっと薬師をしているんだからね。ちゃんとこの消毒液も使わせて貰うからね」
そう言ってカバンへ渡した消毒液を入れ、清潔な布を取り出して口を覆ってから裏口へと向かったおばあさんを見送り、私は店へと向かうと。
「あっ、ルリィちゃん!大変なのっ!」
「う、うん。今、おばあさんが裏口から向かったよ。ねえ、アイリちゃんは大丈夫なの?咳や熱が出ていない?」
「ああ、良かった。私はルリィちゃんに貰ったお薬を飲んで、もう咳も出なくなったし大丈夫だよ!じゃあ、宿へ戻るねっ!」
アイリちゃんの咳は、咳止めを飲みだして十日程でほとんど止まった。それからも続けて手洗いうがいをしてくれているからか、風邪もひいていないようだ。
「あっ!アイリちゃん!そのお客さんと会う時は、口を清潔な布で覆ってね!」
「うん!ありがとう、ルリィちゃん!」
手を振って元気に走って出て行く姿を見送っても、もやもやする気持ちが収まらないでいた。
アイリちゃんの家は宿屋だから、長逗留の客が寝込んでも、追い出す訳にはいかないって言っていたし……。それにカミラちゃんやスージーちゃんもお店をしているから心配だし。
木枯らし病か、そうでないのか。調合も手につかず、カウンターの中をうろうろと行ったり来たりを繰り返す私を、ヴィクトルさんは静かに見守っていた。