もふもふになっちゃった私ののんびり生活

「プククク。ほら、おじょうちゃん、着いたぞ。一本目の角を曲がってすぐだから、迷わないで戻れるだろう。この店は品揃えがいい店だからな」
「ふへっ!あ、ありがとうございますっ!」

 気づいたらピタリと止まっていて、ポンッと足を叩かれて合図されると肩車から降ろされた。途端に下がった視界に、台に並べられた調味料が目に入る。
 この通りは大通りに比べると道が狭く、店の前には露店が並び、多くの人が行き交う喧噪に満ちていた。庶民用の商店街なのだろう。

 ぴょこんっと勢いよく頭を下げてお礼をすると、ポンポンッと頭を撫でられた。

「なんだいライル、その子は。それにホラ、散った散った。なんだいこんな小さな子を見つめて。悪さする気なら容赦しないよっ!」
「お、俺はこの子を案内して来ただけだよ。あとはよろしくな、女将さん。じゃあ、またな。人混みを歩く時は気をつけろよ!」

 店から出て来た恰幅のいいおばさんが辺りを見回しながら声を張り上げると、バタバタと周囲から人が去って行く。その様子にん?と首を傾げていると。

「ほらじょうちゃん、入んな。そんなところでそんなかわいいことしていると、悪いヤツに攫われちまうよ!で、何が欲しいんだい?」
「えっと、塩と……しょっぱい液体の調味料はありますか?」

 なんだか周囲を見回した時に、目が合った気がしていたのは気のせいじゃなかったの?やっぱり私の銀色は目立つんだね。それにかわいいことって?

 そう思いつつ店に入り、せっかくなので在庫が少なくなってきた塩と、少しの希望を込めて醤油がないか聞いてみる。

「しょっぱい液体?うーん。何種類かはあるが、名前は知らないんだね?ちょっと待ってな」

 神様が用意してくれた家にはそれなりに調味料が用意してあったが、この店を見回しただけでも、見たことのない液体の入った瓶がいくつもあった。
 店内を見回していると、奥へ行った女将さんが三つの小さな小皿を手に出て来た。

「ホラ、これだよ。指をつけて味を見てみな」
「ありがとうございますっ!」

 おお、味見させてくれるなんて、女将さんいい人っ!

 手に浄化を掛けてから小指を小皿に取り分けられた少しの調味料につけ、その指を口に含んで味を確認する。
 一つ目はしょっぱいが苦みがある味だった。そして二つ目が。

「あっ、これっ!ちょっと味が似ている、かも?」

 風味は違うが、なつかしい感じの味がした。醤油とはいえないけど、和風の味付けができそうだ。

「これかい?これはウルっていう木の実を絞った汁から作った物だよ。これはちょっと高いけど、買うかい?塩はこの小袋で小銅貨三枚、この調味料はこの小瓶で小銅貨七枚だよ」
「買いますっ!どちらも一つずつ下さい!」

 小銅貨七枚の調味料はかなり高いのかもしれないし、その調味料を子供の私が買うと目立つかもしれないけれど。
 その時はそんなことを気にすることなく和食に思いを馳せて元気に返事をしていた。
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