もふもふになっちゃった私ののんびり生活
ヴィクトルさんに連れられて到着したのは森のかなり奥、山からの水が流れている川の傍だった。
この辺りは結界から見ても更に何キロも奥地になる。それなのに今日は一度も魔物の姿を見ていなかった。
……絶対ヴィクトルさんの気配にビビッて近づいて来ないんだよね。セフィーがあれだけブツブツ言っているのに、護衛として使えって言う訳だよねぇ。
実際に魔物を倒すところも何度も見てはいたが、どうやらそれさえも片鱗で、ヴィクトルさんは桁外れの強さらしい、としみじみ実感した。
「ええと……。マギラ草は、これ、ですね。川沿いを下りながら探しましょう」
「わかった。俺も探そう。ただ、俺も目を離さないように注意しているが、ルリィも俺から見えない場所へは行かないでくれ。ここら一帯の魔物は、隙を見せたらすぐに襲って来るからな」
「はい!気を付けます!」
私が一人でこんな場所を歩いたら、セフィーの助けも間に合わない一瞬で襲われて終わりだろう。うん。枝からも不満気な気配はするけど、セフィーも否定できないみたいだし。
川沿いを、二人でマギラ草を採取しながら歩いて行くと、他の水辺でしか採れない薬草を見つけたり、ヴィクトルさんに別の薬草を教わったりして、夕暮れの頃にはかなりの量を採取することができた。
「あっ!この先が結界ですね。ここら辺は確か来たことがありますよ」
「そうか。では、今日はこの辺にしておくか?」
「いえ、結界の中へは入れますし、斜めに突っ切った方がヴィクトルさんも速く街へ戻れますよ。結界の中には魔物も入れませんし、荷物を纏めながら休憩にしましょう」
「あ、ああ」
ヴィクトルさんの返事の切れが悪いのは、一度結界に弾かれた朝のことを思い出したからだろう。
大丈夫だよね?と確認の為に枝を握って念話でセフィーに話し掛けると、入れますよ、と不機嫌そうな短い返事が届いた。
そこからすぐに辿り着いた結界に何のためらいもなく踏み込んで振り返ると、ヴィクトルさんがゴクリと一度唾を飲み込んでからそっと一歩を踏み出していた。
その様子に私までドキドキしてしまったが、当然ながら今回はすんなりと結界をすり抜けて入ることができた。
それにホッとしつつ、この先に美味しい木の実がなっていたことを思い出してヴィクトルさんに言って走って行き、落ちていた木の実を拾う。
「はい、この木の実、美味しいので食べて休憩していて下さい。私は薬草を仕分けてしまいますから」
「ああ、ありがとう。美味しそうだな」
木の実を渡して引き換えに私の身長程もありそうな大きな袋を五つ受け取る。
これだけ大量にあるので、この内の一袋は私が処理をして三日後に街へ行く時に持って行くつもりだ。
家の周囲の草原でローブル草も採らないとね。うーん。処理が全部終わるかな?
「明日はもう大丈夫なのか?」
「はい!これだけあれば、当分は間に合うと思いますし、これ以上は処理が追い付かない気がします」
「そうだな。調合する手間もあったか。では、次は予定通りに三日後、だな?」
「はい。いつも通りの時間でお願いします」
なんだか街への行き帰りを二人で行くのが当然のようになってしまった。そう考えれば私もヴィクトルさんのことを受け入れているということなのだろう。まあ、恋愛感情ではないが。
それから仕分けた薬草をヴィクトルさんへ託し、しっかりとお礼を告げるとその場で別れたのだった。
だから私の後ろ姿を見送ったヴィクトルさんが、結界を出て迂回して街へ戻るか、そのまま突っ切るかでしばらくその場で迷っていたことには気づかなかったのだった。