もふもふになっちゃった私ののんびり生活

「……ルリィ、何をやっているんだ?それをやるなら人の姿の方が運びやすいんじゃないか?」

 というヴィクトルさんの声と共に背負っていた荷物が浮いたままそっと外された。

 そ、そうかもっ!人の姿なら荷物よりまだ身長の方が高いんだし、背負って風で持ち上げて走れば良かったんだ!

 ガーーンッ!とそのまま固まった私を、どうしたらいいのか、という表情のヴィクトルさんが見下ろす、そんな構図は私が立ち直るまで続いた。



「でも、驚きましたよ。まだあと半分!と思っていたのに、目の前にヴィクトルさんがいたから」

 獣姿の背に自分の体長よりも大きな薬草の入った袋を二つも背負ってなんとか歩いていたが、その重さにとうとう潰れ、袋を風で浮かせば!と思いついた丁度その時、ヴィクトルさんに声を掛けられたのだ。

 ……気づかなかった私も私だけど、上から見たら私、袋に尻尾が生えているみたいに見えたよね。

 そんな荷物もヴィクトルさんは軽々と運んでいる。

「あ、ああ。結界に入れるなら、薬草もあるし行ける処まで迎えに行こうかと思ったんだが、遅くなって悪かった」
「いえいえ、私が気づけば良かったんですよ」

 あれから気を取り直した私は、やけになって全速力で森を突っ走った。
 どうせヴィクトルさんは何てことない顔でついて来るのだ。そう思っていたら、着替えに寄った大木の近くで振り返ると、ヴィクトルさんはちょっとだけ気まずそうな顔はしていたがやっぱり息を全く切らしていなかった。

 警戒もしないで走っちゃったから、魔物もヴィクトルさんが追い払ってくれていた筈なのにね。

 とりあえず気を取り直し、着替えて今は人の姿で街へと向かっているところだ。

「あ、そういえばおばあさん、あれだけの量だから、何か言っていませんでしたか?」
「さすがに驚いていたぞ。薬師ギルドに持ち込んで話を通すと言っていたな」
「わあ!それなら薬の準備は間に合いそうですね!街の様子はどうですか?」

 なんか今、返事の前にぼそっとどうやっても入れなかったのが急に入れるようになったからな、とか言ってた?いや、結界はこの間も入れたし、気のせいだよね。

「そう、だな。俺は収穫祭の時はそれ程気にしなかったが、日を追うごとにあちこちでゴホゴホという咳き込む声が聞こえて来ているな」

 やっぱり……。収穫祭の人混みで、一気に拡散したんだろうな。喘息なら飛沫感染しないから良かったんだけどね。治療魔法がないから病気を治すには薬を飲んで安静にするくらいしかないし……。

 手洗いうがい、それに殺菌消毒を兼ねた浄化魔法をこまめに掛けていれば感染を防げる可能性は高いが、浄化を部屋全体に掛けられる人は少ないし、清潔な環境には限界があるから流行を止めるのは難しいだろう。

「お、ルリィちゃん、今回はちょっと間が開いたんだな。ゴホゴホッっと。すまん。身分証を確認するな」

 門へ着くと、顔見知りの門番さんがいたが、ゴホゴホと咳が止まらないようだった。
 どうしようと眉に力が入るのを自覚しながら身分証を出す。
 身分証はおばあさんに弟子入りした時に登録した薬師ギルドの物だ。

 薬草や薬を売るにも税金がかかるので、ギルドへの登録が必要だったのだ。
 そしてギルドへ登録すると、春に一年分を申告して税金を支払うことになるが、その分入街税などが掛からなくなる。

 討伐ギルドなど日々危険な仕事の職種によっては、例外的に一回一回の仕事毎に税が引かれた報酬を受け取ることもあるそうだ。
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