没落人生から脱出します!
「あの、フレディ様……」
「どう、似合う? かっこいい?」
いつの間にか、フレディが左腕に腕時計をつけていた。そしてカチカチとボタンをいじっている。光っては消える腕時計の盤面。それが急に、チカチカと急速に点滅し始めた。これは正常な動きではない。
「えっ?」
「……うわっ」
やがてぱっと眩しいくらいに光り、腕時計からは小さな煙が出た。
次の瞬間、フレディはふっと意識を失い、エリシュカの方へ倒れ掛かってくる。
「だ、大丈夫ですか!」
同じくらいの体格とはいえ、エリシュカは力の抜けた人間を支えるほど力があるわけではない。一緒に倒れ、尻もちをついてしまう。
「大丈夫ですか、坊ちゃん」
護衛が慌てて駆け寄って、彼を支える。だが、フレディは反応がなく、顔は真っ青で、生気が感じられなかった。
(どうして?)
エリシュカは頭が真っ白になった。
魔道具の暴走の原因も、フレディが倒れた理由もわからない。でもきっかけが何かわからなくても、自分のミスには違いないだろう。途端に足が震えてくる。
「どうかなさいましたか?」
ヴィクトルが駆け寄ってくる。けれど、パニックになったエリシュカの頭に思い浮かんだのは、リアンだった。
「誰か……り、リアン! お願い、助けてください。リアン!」
悲鳴に似た声に、ヴィクトルが驚いて立ちすくむ。止まらない叫び声に、すぐに二階からリアンが駆け下りてきた。
「どうした? なにかあったのか?」
「リアン、お客様が……!」
彼の姿を見た途端、エリシュカの胸に安堵に似た気持ちが訪れる。
(いつの間に、だろう)
この人がいれば安心できる。リアンが、そんな存在になっていることに気づく。今となっては頼りにしてきた叔父よりもずっと、リアンの方がエリシュカにとっては信頼のおける人物になっていたのだ。
リアンの手が肩に触れ、エリシュカの動揺をなだめるようにさすってくれた瞬間、エリシュカは震えがおさまるのを感じた。