かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


土日を挟んだ五日間。桐島さんからは『このあいだ話した映画、相沢さんさえ都合がよければ一緒に行きたいと思ってるんだけど、どうかな』だとか『陸に貸したままのDVDを取りに行くけど、おみやげの希望はある?』だとかメッセージはあった。

でも、映画は『予定を確認してみます』と言ったっきり返信していない。
DVDに至っては、桐島さんが来るといった時間にわざと外出した。

三時間ほどして帰宅すると、陸が『これ、澪も食べるようにって桐島が置いていった』とドーナツを差し出され、桐島さんがいないことにホッとしつつも罪悪感で胸が痛かった。

でも、だって、仕方ない……と思う。
恋愛初心者の私が相手だっていうのに、ガンガンくる桐島さんだってよくない。

私だっていつまでも逃げ回るつもりはない。
だからせめて、形勢が整うまで……初恋に騒いだままの心がもう少しだけ落ち着くまで待っていてほしいと思うのは、そこまでわがままでもないはずだ。

もしかしたら、桐島さんが言っていた〝誤解〟って、案外せっかちだとかそういう意味もあったのだろうか。

そんなことを考えながら立ち寄った本屋。
十八時半という時間帯。学生や社会人でそこそこ混み合っている店内をぶらぶらしていて、知っている顔を見つけ、思わず「あ」と声がもれた。

それを聞いて、相手も私に気付いたので、咄嗟とは言え声を出したことを少し後悔したけれどもう遅い。

私を見て眉間にシワを寄せた川田さんも、ここで鉢合わせることを望んではいなかったのはわかった。

それでもここまでばっちり目が合ってしまった以上、大人なので、挨拶もなしにこのまま背中を向けるわけにはいかず、お互い不本意ながら近づいた。


< 149 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop