かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


恋人が異性とふたりきりで会うのは、私も嫌だ。
相手の女性が好意を持っているならなおさら。

だから、桐島さんに着いて行ったのは間違いだとは思わない。

けれどそれは、本当の恋人同士だったらの話だ。私は違う。
あの場でかわされた会話には完全に関係のない第三者だった。

でも、桐島さんに頼まれて演技している以上、それは言えずに謝った私に、川田さんはひとつ息をついてから首を横に振った。

「別にいいわよ。それに……中学の頃のことを、桐島くんは最初から気にしてさえいなかったみたいだしね」
「でも……やっぱり――」

再び謝罪の言葉を口にしようとした私を、川田さんが「謝らないで」と止める。
少し語気を強めた彼女に驚いていると、川田さんは眉を寄せ微笑んだ。

「相沢さんの言う通りだったのよ。あの時私は、ただ謝ろうとしただけじゃない。あわよくばって気持ちがあったの。……だから、謝らないで」

ハッキリと言われ、口を閉じると、そんな私に川田さんが笑いながら言う。

「私、桐島くんが初恋だったのよ。中学三年よ。遅くて笑うでしょ」

川田さんからしたら自虐のつもりだったのだろうけれど……私がこぼしたのは苦笑いだった。

「笑えません。……私も桐島さんが初恋なので」

カミングアウトした私に、川田さんは目を見開き、それからたっぷり時間をかけて驚いたあとで「さすがに遅すぎない?」と確認するように聞いたのだった。



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