かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「浮かれてたのね。だから、深く考えもしないで友達に言いふらして……羨ましがられていい気になってた。そのぶん、父親の話が勝手な思い込みでしかなかったって知ったときの落胆も大きかったわ」

静かに語る川田さんに、いつの間にか少しの共感が生まれていた。
桐島さんから話を聞いた時も、実際三人で会った時にも、あんなに嫌悪感を抱いていたのに、不思議と今はない。

過去、桐島さんの不名誉な噂を流したことは理解できない。
〝彼女〟の私にあんなに食ってかかってきたのだって第三者から見たらおかしい。

でも、こうして話して川田さんの人となりを知っていくうちに、持っていた苦手意識が薄れていくのを感じていた。

緒方さんと話していた時に似た感覚だ。

「桐島くんのことはたしかに好きだった。でも、私はそれ以上に自分のプライドだとか立場が大事だった。最近になってやっとそんな自分に気付いて……そんな時、たまたま彼を見かけたから、つい声をかけたの。今だったら、今の私ならきちんと向き合える気がして」

目を伏せ笑みをこぼした川田さんがすぐに続ける。

「でも、だめだったけどね。結局私は自分がどんな性格か気付いたところで、自分以上に大事なものなんてないのよ。なにが正しいか頭ではわかっていても、プライドが邪魔してその通り立ち回れない。それがハッキリわかっただけで、桐島くんには不快な思いさせちゃって申し訳なかったわ。……だから、もう会わない」

固い決意がにじむ声と表情に、自然と「すみません」という言葉が口をついた。

「なにが?」
「川田さんが桐島さんに心の内を話せなかったのは、私が同席したせいもあるんじゃないかと思って」

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