かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「失礼ですけど、お仕事はなにを? もしかして医療機器メーカーの営業をしていません?」

少し前にそんなことを言っていた気もするけれど、しっかりと覚えてはいない。
でも、黒田の反応を見る限り、当たっているようだった。

言い当てられ、不思議そうにしていた黒田が、次第に焦ったような顔つきに変わる。

「あー……大学病院の、事務局の……えっと、あれですよね。内科部長の娘さん」

黒田の言葉に、そういうことかと納得がいく。
医療機器メーカー勤務の黒田が営業で行く大学病院。そこの事務局で働いているのが川田さんで、ふたりはお互いに顔を知っている状態なんだろう。

そして……見る限り、黒田の方が立場が弱そうだ。

「いやぁ、すごい偶然ですね。びっくりしました。いつもお父様にはお世話になってます。この間話したときには禁酒しているって言っていましたけど、どうですか? 続いてます?」

ヘラッとした笑顔を浮かべる黒田に、腕を組んだままの川田さんが答える。

「父の禁酒なんていつだって口だけよ。医院長が健康志向だから話を合わせてるんでしょ。別に翌日まで響くような飲み方でもないから、母も私も放っておいてるけど」

淡々と言った川田さんが「それより」と私を見る。


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