かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「根っからの女好きだな。あの様子だとたぶん、相沢さんを諦めただけで職場内で遊ぶのはやめないだろうね。今まで運よく問題にならなかっただけで、これからもそうだって保証はないのによくやるな」

呆れた顔で言う桐島さんには同感だった。
本当に、仕事と引き換えるようなものでもないだろうに……とげんなりする。

「意図的に偶然を重ねたり、強引にでもきっかけを作ろうとする気持ちはわかるけど、もっと上手くやらないとね。怖がらせるのは得策じゃないし、女性相手に詰め寄るのはよくない。二度と近づいて欲しくないな。……怖くなかった?」

「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございました。対応に困っていたので助かりました」

お礼を言った私に、桐島さんはそれまでとは違った、やわらかい微笑みを浮かべた。

「いや。この間、酒井部長とのことを聞いてから気になってたから、立ち会えてよかった。いくら相沢さんがきっぱり断ったところで、話が通じない相手は一定数いるから心配だったんだ」

黒田のことも含めて言っているんだろうというのがわかり、苦笑いを返す。
桐島さんと川田さんのおかげで、一気にカタがついた。

色んなことにもやもやとしていた数週間前が嘘みたいに、桐島さんと付き合いだしてからとんとん拍子に物事が進み、なんだか怖いくらいだった。

――けれど。
すんなり進んでいないこともあることにはあって……。

「でも、あんなことを言われたら俺も不安だな」

いつの間にか目の前まできていた桐島さんが、棚に肩肘をつく。

書庫はそんなに広くない。
棚と棚の間は一メートルもない上、私がいたのは奥の方だったので、逃げ場を奪われたような状態になった。

桐島さんの影が私に落ち、胸が跳ねる。


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