かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


酒井部長と話していたときに感じていたドクドクという嫌な鼓動が、恋の甘さを含んだものに書き換えられる。

ドキドキ騒ぐ胸を押さえながら「あんなこと?」と見上げると、桐島さんが目を細めた。

「近いうちに試してみてもいい? 俺と澪の相性がいいかどうか」

――そう。
私たちはまだその一線を越えていない。

付き合いだしてからまだ二週間だし……とは思うものの、世間一般で言うところの普通がよくわからないだけに悩んでいた。

学生ではなく、大人同士の付き合いだし、お互い納得さえすれば体の関係を持つまでの時間はあまり必要ない気もする。

付き合い始めてからというもの、桐島さんは本当によくキスしたり抱き締めたりとスキンシップをはかってくるので、そういう関係になるのも時間の問題に思えた。

だから、付き合い始めてからずっと、覚悟は決めていたつもりだけれど……いざ、こう聞かれると声が詰まる。

黙った私を誤解した桐島さんが、自嘲するような笑みを浮かべ「ごめん。これもセクハラだね」と引き下がろうとするので、慌ててワイシャツを掴んだ。

「あの、初めてだし、迷惑かけるかもしれませんけど……私も、試してみたいです。相性」

意を決して見上げた私に、桐島さんが驚きから目を見開いていた。




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