東京ヴァルハラ異聞録
なぜか身体に力が入らない。


傷は身体の表面を斬っただけで、大したダメージでもないはずなのに。


「くそっ!くそっ!!」


なんて情けないんだ俺は。


梨奈さんを見殺しにされ、その恨みを晴らす事すら出来なかった。


「むっ!!ボウズ!しっかりせい!」


しばらくして、御田さんの声が聞こえた。


その後ろからは北軍の物らしき怒号も聞こえる。


「すみません……足止め出来ませんでした。あいつらは船で……」


「むうっ!タケさんもボウズもこんな怪我で……こりゃあワシ一人ではとても二人を守って逃げられんわい」


梨奈さんの亡骸を欄干にもたれさせ、俺に肩を貸し、立ち上がった御田さん。


欄干に近付き、俺を地面に下ろした。


篠田さんも秋本との戦いで相当なダメージを受けている。


だけど……どうして二人とも生きていた?


どちらかが死ぬまで決闘は終わらないはずだろ。


あの時、決闘が終わっていなかったら、秋本のハルベルトがPBTを破壊する事はなかったんだ。


そんな事を考えている間に、北軍の連中に取り囲まれてしまった。


「お前ら!逃げられると思うなよ!」


「ぶっ殺してやるぜ!!」


身体中血塗れで、いかにも瀕死な俺と篠田さんを見て、強気になる北軍。

御田さんがまだいるというのに。
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