東京ヴァルハラ異聞録
「す、昴……大丈夫か!?」


「何とか……水の中の方が動きやすいくらいです」


篠田さんが俺を心配して、近くまで来てくれた。


「運良く流れが西軍に向かってるな。このまま流されて行けば、帰れるはずだが……結局助けられなかったか。情けねぇな」


そう呟いた篠田さんに、俺は何も言う事が出来なかった。


御田さんと篠田さんは問題がなかったはずだ。


俺が弱かったから……梨奈さんは殺されてしまったんだ。


なんて、考えている余裕もなくなってきた。


「し、篠田さん……そろそろ体力の限界が……」


「お、俺に言うな!俺だってそんなに泳ぎは……」


岸に向かって泳ぐにも、そこまで持つかどうか。


二人で必死に泳いでいた時だった。


バシャバシャと派手な音を立てて、背後から何かが迫って来ていたのだ。


「お前ら!大丈夫か!?」


それは、御田さんだった。


川の岸に停めてあった船に乗り、斧で漕いでいたのだ。


はは……武器でなんだって出来るもんだな。


だけど、助かった。


近くに来てくれた御田さんに引き上げられ、俺と篠田さんはぐったりとして北軍の街を見ていた。


自分の無力さを痛感しながら。
< 350 / 1,037 >

この作品をシェア

pagetop