東京ヴァルハラ異聞録
「ふぅ……食ったな。さて、そろそろ行くか。久慈、ちょっと肩を貸してくれよ」


「え、ええ……それは構いませんけど」


食事を平らげた篠田さんが、久慈さんの肩に手を置いて立ち上がった。


そして、ゆっくりと俺の方に近付くと、キャップを脱いで俺に被せたのだ。


「辛気くせぇ顔すんな。自分の力の無さを嘆いたら、次はもっと強くなりゃあ良い。お前は強くなれる。俺が保証してやるよ」


その言葉は、俺を励ましてくれているのか。


ニッと笑って見せて、手を振ってエレベーターの方へ歩いて行った。


「あ、あの!この帽子……って、行っちゃったよ」


「ふはははっ!ボウズもとんでもない男に見込まれたもんじゃな。こりゃあ、あいつの分も強くならなければな」


そうなのかな?


時計を見ると15時前。


真由さんがほんの僅かな時間だけ、人間に戻る時間だ。


この時間を邪魔するわけにはいかないよな。


それに……梨奈さんを殺された事を知った真由さんの顔は、とてもじゃないけど見られない。


篠田さんは強いな。


「それにしても、どうして篠田さんの傷は治らないんですかね。決闘も二人共生きていたのに終わったみたいだったし……」
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