東京ヴァルハラ異聞録
ピシッ。
と、卵に亀裂が走ったのだ。
「!?よりによってこのタイミングで孵化するのか!?」
「ちょっと!勘弁してよ!私は武器がまだ直ってないのよ!?」
槍とショットガンを構えた名鳥。
そして、俺達の後ろに移動して、成り行きを見守る雨村。
さらに亀裂が大きくなる。
ドクン。
と、中の生物の鼓動が聞こえたような気がして。
「来るっ!」
名鳥が腰を落としたと同時に、弾けるように殻が割れて……球状の液体が、パンと弾けた。
中にいたのは、一人の人間。
だけど……どこか見覚えがある。
「……黒井?」
その答えにいち早く辿り着いたのは、名鳥だった。
濡れていて確信は持てなかったけど、確かにその顔は黒井。
だが……その身体は。
「……フハハ。ハハハハハッ!!力が溢れる!!なんだこりゃ!俺はどうなっちまった!?」
黒く、猛禽類のような翼が背中に。
そして、鳥の足。
腕も毛に覆われ、もはや人間と呼ぶには程遠い姿になっていたのだ。
「黒井……だけど、黒井じゃない。お前、黒井をどうした!?」
名鳥の中で、黒井が失踪した理由がわかったようだ。
いや、この姿を見れば、俺にだってそれくらいわかる。