溺愛フレグランス


「じゃ、いってきます」

私はそう言って、ガレージにあるマイカーに乗り込んだ。
朔太郎は、確か、二十代後半くらいで結婚をした。IT関連の有名企業に勤めていた朔太郎は、その会社でナンバーワンと言われていた綺麗な人と結婚した。
私の父がちょうど脳梗塞で倒れた時期と朔太郎の結婚した時期が重なったせいで、私は何だか複雑な気分になったのを覚えている。

朔太郎は学生の頃からよくモテた。
幼なじみで近所という特権を持つ私は、その他の女子によく羨ましがられた。
でも、私も朔太郎も幼なじみ以上の感情を抱く事はなかったため、二人の関係は家族的ないいものだった。
そして、就職を機に、二人は全く会わなくなった。
まずは朔太郎が実家を出て行った事もあるし、それに朔太郎の思いがけない早い結婚のせいで、私の中で取り残された気持ちが膨らんでしまった。

そんな事を考えながらも、私は快適に車を走らせた。
国道に沿って南へ進めば、十五分ほどで市役所が見えてくる。
何故、快適かって?
それは朔太郎の結婚生活は三年も続かなかったから。
今や朔太郎は、バツイチのレッテルが貼り付いている。そんな事が嬉しくてたまらない私は、人間的に最低だと思うけど。


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