溺愛フレグランス


「おはようございます」

私の働く戸籍住民課は、住民票や戸籍謄本を発行する窓口業務がほとんどだ。
でも、私の担当は奥で行う郵送業務で、毎日、平均的に忙しい部署だった。

「晴美ちゃん、おはよう」

必ず、朝一番に声をかけてくれるのは、職員で同い年の石田さん。
三十二歳の彼は、クマのプーさんみたいなポッチャリ系男子。
周りのおばちゃん達は石田さんが私に好意を寄せているとうるさいけれど私は全く興味はなく大好きなお友達の一人として接している。

「晴美ちゃん、今日も一日頑張ろう」

石田さんはそう言うと、近くのコンビニで買った淹れたてのカップコーヒーを持って自分のデスクへ向かった。
こうやって、毎朝、石田さんは私に朝の挨拶をするためにこの場所で待っていてくれる。すごく有難いと思う反面、少々、気持ちが重くなる自分がいた。
すると、隣の係にいる由良ちゃんという二十七歳の女の子がすぐに私に近寄ってきた。

「晴美さん、あの人といい感じでやり取りしてますか?」

そう、この由良ちゃんという女の子は、私の心の友。
簡単に言うならば、マッチングアプリに情熱を注ぐ大切な仲間の一人。
私みたいな三十二歳にもなって彼氏がいない人間がマッチングアプリに嵌まるのはしょうがないとして、でも、由良ちゃんは完璧な公務員で、同僚や先輩やその他独身男性と出会わないわけではない。
でも、最近の若い女性は、ある意味すごく賢くて合理的だ。
自分の理想とする男性と簡単に知り合いになれるこのシステムに、無駄を感じないと言う。ひと昔前は、両親の薦める男性とお見合いをした。お互いの家柄や収入、家庭環境など似通った人と結びつける慣習があった。

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