翔ちゃん雨だよ一緒に帰ろ?
「へぇ、ふぅん、そうなんだ」
雨が、更に強くなった気がした。
「……前言撤回してもいい?」
「撤回?」
「キスしてくれたら諦められるかも」
立ち止まって奥寺はまっすぐに俺をみつめた。瞬きひとつしない大きな瞳が、微かに揺れたような気がした。
耳鳴りするほどの雨音のせいにして、聞こえなかったフリをしてもよかった。
でも少し腹が立って、思わず言ってしまった。
「かも、ってなんだ、かもって。自分を安売りすんな」
「してない。宮辺君がいい。そういうとこが好き」
「気持ちは伝わってるし嬉しいけど、そういうの奥寺らしくないんじゃないの?」
「らしくない、って……私のこと知ってくれてるんだ?」
「そうじゃなくて」
一度ごめん、って言われたら普通は諦める。それが定型だと思ってたけど彼女にはそれが通用しない。
はぁ、と息をひとつ吐いた。
「男はキスだけで止まれないし、むしろキスなんかなくてその先だけでいいわけ」
中学の頃のチャラかった俺を知ってたら、奥寺は俺に告ったりしてないはず。