『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「おらおら、そっちの角、気をつけろよ」
「よし。オーライ、オーライ」
 引越し屋さんの声が階段の下から聞こえてくる。
 リビングからまっすぐ伸びる階段は、おばあちゃんが亡くなってから電動リフトがはずされて、気味が悪いくらい幅広くなった。
 その階段を今、下からどすどす駆けあがってくるのは――
春加(はるか)ぁ?」お母さんだ。
「ほら、春加、あなたも手伝いなさい。引越しなんてものは、ひとが何人いたって足りるもんじゃないんだから」
「…………」
 どういうこと?
 ひとりで張りきっちゃって。
 どうなってるの?
 迷惑どころか、なんだか浮かれちゃってない?
「ほら、春加!」
 うるさい。
「なんであたしも? 放っておけばいいじゃん。勝手に押しかけてきたんだから」
「春加! そんなこと、これからひと言でも言ったら、パパに黙ってませんよ?」
 うへー。


「春加ぁ? その洗濯洗剤の段ボール。中身、本当に洗剤なんですって。(のぞみ)くんママがもたせてくれたらしいわ。――運んでおいて」
 はぁぁぁぁぁ?
「てか洗剤? 全部? ばかなの?」
 粉洗剤の箱、1個でも重いよ?
 1ダース?
「ひぎっ」
 持ち上げようとして一瞬で絶望。
 押して廊下まで動かした段ボール箱を、さらに押して洗面所へ。

 うちはお風呂だけ、お年寄りの入浴介護をするために広めのをひとつ1階に(しつら)えたバリアフリーの二世帯住宅だ。
 おじいちゃんの三回忌が終わったあと、元気なうちに東京に住んでみたいと言ったおばあちゃんをお迎えするために建てたらしいけど。
 7歳だったあたしにはリフトはおもちゃだったし、毎日おばあちゃんとお風呂に入れて楽しかったから、介護ってなにか真剣に考えることになるまえに亡くなったおばあちゃんに『お礼を言いましょう』って。
 リフトを外すとき、お母さんは両手を合わせていた。
 あのときもうゾンビが家に来ることが決まっていたなら、それってなんだかもう、裏切られた! まで思っちゃうんですけど?
< 11 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop