『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「重っ…重っ…」
 うなりながら洗面所のすみの洗濯機の前まで段ボールを押して。
「ふぅ…」
 ひと息ついて、それを見た。
 家族の人数分のタオルフック。
 ぽっかり空いてしまったはずの、おばあちゃんの場所にもう新しいタオルがかけてある。
「あ…いつ……」
 怒ってもしかたないのはわかってる。
 ゾンビはもう(うち)で暮らすって決まっちゃったんだから。
(でも……)
 お母さん、ひどいよね。
 あたしひとりは――せめて、あたしひとりは――、おばあちゃんのことを忘れないでいてあげるからね。


春加(はるか)ちゃーん。ママお昼ご飯の仕度するから、あなた、(のぞみ)くんを手伝ってあげてぇ」
 洗面所でひざをかかえてアンニュイ女子になっていたあたしに、その声は絶望的だった。
(…ちゃん? ママ?)
 お母さんは、よそゆきモードだ。
 恥をかかせたら、あとの仕返しが大変なことになる。
「今、行きまぁぁぁす」
 返事だけね。
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