『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 階段をとんとんのぼるお母さんの足音が聞こえたところで、どっこいしょ。
 だらだら立ち上がって洗面所からリビングへ。
「失礼しまぁーす」
 やっているふりだけするつもりで開けたリビングのドアが――開かない。
 横開きのドアは、把手(とって)に指をかけるだけですべるように開くはずなので、それに慣れていたあたしは、
「ん? ん、ん?」
 よせばいいのに思いきりの力を把手にかけてしまった。
 とたんに、

 ごわぁぁぁぁぁぁん

 半開きになったドアの向こうで、なにか金属がフローリングの床に倒れる音がして。
「うわっ…ぶね!」
 細く開いたドアのすきまから、金属の棒が広がる床にあぐらをかいて、頭の上でそのうちの1本を握ったひとを見た。
「すみません。なんか荷物がつっかえちゃってますね。今、どかします」
 いや、すみませんはあたしなんだけど。
「あの……」
「ほんと、ごめんなさい。ドア、大丈夫だったかな」
 いや、自分の頭のほうを心配してくださって…いいですよ?
 恐ろしさに動けなくなったあたしのまえでドアが閉まって。
 ドアの向こうでズルズルなにかを引きずる音がして。
「どーぞぉ」顔をのぞかせたのは――だれ?
 突っ立っていたあたしを見ると、彼のにっこり笑っていた顔が、いきなりしぼんだ。
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